どうしてあんなに怖い?歯医者のドリル音

歯医者の「音」が怖い理由

昔ながらの歯医者さんといえば、独特の雰囲気があって苦手に感じている人が少なくないようです。なかでも、院内に響き渡るハンドピース(ドリル)の音は、歯を削る痛みを連想させ、聞いただけでもあごの辺りがむずむずします。試しにYouTubeで「不快な音」と検索してみると、このハンドピースの音がすぐに見つかる始末です。

治療が必要でも怖ろしくて歯科医院に行けない「歯科恐怖症」に悩まされている方も多く、歯医者としても悩みの種です。どうして歯医者の「音」はこれほどまでに怖いのでしょうか。その理由を考えてみましょう。

音が心情に働きかける力

歯の治療中に聞こえる不快な音の大半は、ハンドピースというドリルのような道具から出ています。ハンドピースにもいくつか種類がありますが、「エアータービンハンドピース」は圧縮した空気でローラーを回し、歯を削るための刃物で、1分あたり30~50万回もの高速回転をしています。心をざわつかせる高い音は、この高速回転の産物です。
音と心を結びつける研究はこれまでにたくさん行われてきましたが、そうした研究の結果から、音は私たちの記憶や心情と密接に結びついていることがわかっています。

実際、音の持つ情緒や情動に訴える力の大きさには目を見張るものがあります。これは、脳科学的には音の刺激(聴覚の刺激)は大脳辺縁系に伝わることがわかっていて、扁桃体や海馬への刺激も含まれているということです。
海馬といえば記憶を司る領域ですから、音の刺激を受けたときには周囲の空気や感情まで一緒になってよく記憶される特性が人間の脳にはあるということなのでしょう。そういえば、学校の学習でも音読が広く推奨されるようになっていますね。
また、普段は聞き慣れない音というのは印象に残りやすいものです。特に、周波数が急激に変化する音は、叫び声や動物の警戒音に見られる音型で、恐怖心や警戒心を高めるとされています。

振りかえって歯医者のハンドピースの音について考えてみると、普段は聞き慣れない高音ですから、まさに恐怖を掻き立てやすい音型の特徴を典型的にかね揃えていると言えそうです。
さらに都合の悪いことに、私たち人間を含めて、動物は痛みの記憶を定着させやすいようです。これは「予想外のことが起きて驚いたときに記憶が作られる」という予測誤差の理論によるもので、すでにコオロギを使った実験で明らかにされていることですが、人間を含めたほ乳動物にも当てはまる可能性があると考えられています。この説が正しいとすれば、歯の治療に伴って予期せぬ痛みを感じることは、鮮明な恐怖の記憶を作り出すということになってしまいます。
歯医者のハンドピースの音がこれほどまでに恐れられる存在になっているのは、こういった事情があるのかもしれませんね。

怖い音を軽減する当院の取り組み

歯医者が嫌いになってしまう理由には人それぞれの事情があるのでしょうが、お口の病気の治療というのはやはり継続して最後まで完了させなければ意味がありません。歯医者に行く人と行かない人の間でお口の健康格差も問題になりつつあります。
当院では、患者さんに安心して治療に専念してもらうために、歯医者特有な不快な環境はなるべく改善すべく、積極的に取り組みを進めています。
その中で、やはり不快な音の軽減は欠かせません。実は歯医者で使われているハンドピースにはいくつか種類があります。中でもエアータービンハンドピースは特に不快な音が大きいのが特徴です。
そこで、当院では5倍速モーターを使用した「5倍速ハンドピース」と呼ばれるタイプを使い治療を行っています。この5倍速モーターは不快な音が小さいだけではなく、トルクが大きいのでブレが少なく、削り方もマイルドにすることができます。つまり、歯を削る嫌な音が穏やかで、振動もマイルドなハンドピースなのです。
この他にも、当院では音だけではなく痛みもできる限り軽減できるようにさまざまな工夫を施して、患者さんの恐怖や苦痛を和らげる取り組みをしています。治療が必要だけど歯医者が怖くてなかなか踏み出せないとお悩みの方も、ぜひ当院にご相談いただければと思います。